中井新一さん「不安なく感謝と充実の日々」【志賀郷地区】
以前住んでいた場所:大阪府東大阪市
現在の住所:綾部市西方町
移住の時期:2025年1月
世帯構成:単身
1972年生まれ
コロナ禍に背中を押されて移住
「コロナ禍をきっかけに人生観が変わった」と話す中井新一さんは、2025年1月に大阪府東大阪市から西方町に単身移住しました。中井さんはコロナ禍前には「老後は田舎暮らしもいいな」とぼんやりと考える程度だったそうです。それがどのように移住への決意に傾いていったのか、中井さんにお話を伺いました。
移住を決めるまでの経緯を聞かせてください
移住前は会社勤めをしながら両親と3人で暮らしていたのですが、あるときから売り上げがすべての会社員生活に疑問を感じ始めました。昇進して給料が上がっても嬉しいのはそのときだけで、すぐにもっと欲望が出てくる。本当の意味で満たされることがないと感じていたのです。定年を迎えるまでお金のためだけに勤め続けることは考えられないと思うようになりました。
そんなときに突然、コロナ禍が世界を変えました。息苦しい日々の中で実感したのは、都会生活の危うさと社会の仕組みのおかしさでした。そこからはお金の仕組みや医療、食品添加物、環境問題、農のあり方など、芋づる式に世の中に存在する問題点が見えるようになりました。
食料危機も身近なものととらえるようになり「いつか田舎に移住して家庭菜園でも」という漠然とした考えは、「一刻も早く移住して、野菜だけでなく米も自分の手で作りたい」という確かな決意に変わりました。
会社を辞めることに不安はありませんでしたか?
もちろん仕事を辞めて移住することは不安だらけで、ものすごく悩みました。しかし田舎暮らしを始めたいという思いの方が強かったのです。
そこでまずは移住者が経営する農家民宿に泊まろうと思い、移住立国あやべホームページで知った「一汁一菜の宿 ちゃぶダイニング」に宿泊してたくさん話を聴かせてもらいました。それを皮切りに綾部で何人もの移住の先輩に会いに行きましたが、そのころには心の中では仕事を辞めて移住する決心はできていたと思います。
米作りはハードルが高いと思っていたのですが、先輩たちの暮らしぶりを見て「自分にもできるかも!」と思うようになりました。
そして移住に向けて動き始めたわけですね
はい、心が決まったのですぐに家探しを始めました。5軒の古民家を見て回った中で、今住んでいる家に決めるのに時間はかかりませんでした。この家は農家民宿「今や」に宿泊したときに教えていただきました。もちろん家も周りの景色も気に入ったから決めたのですが、とにかく早く田畑を始めたかったので家探しに時間をかけたくなかったのです。
すぐに購入した家のリノベーションを工務店にお願いしました。それと同時に、綾部と東大阪市を行き来しながら米作りを始めました。移住を決めてからの行動は速かったと思います。
田畑のやり方はどのように身に付けたのですか?
農は無肥料・無農薬でやると決めていたので、赤目自然農塾に何度か通いました。ところがなんと購入した家のすぐ近所に赤目自然農塾で学び、自然農の田畑を実践する先輩が住んでおられることがわかって驚きました! 田んぼや畑のやり方を教えてもらえる以外にも、丁寧な暮らしぶりから学ぶことは多いです。
また、地域の米作りの大先輩のお手伝いをしながらたくさんのことを学び、挑戦もさせてもらっています。近所には素晴らしい人格者や豊富な知識を持った人が多く、この地域や家との出合いに感謝するばかりです。
食卓に並ぶ料理のほとんどが自分の畑でできた野菜でできていることにこの上なく喜びを感じます。自分で育てた米や野菜を出す農家民宿をいつかやりたいと思っており、どういう野菜づくりが自分に向いているのかを見極めていきたいです。
移住後の暮らしや心境の変化は?
移住する前は失うことを恐れていました。安定した生活や収入源など、失ってしまったらどうなるのだろうと考えてばかりでしたが、綾部で暮らし始めてからその怖さがなくなったのです。食べるものを自力で育てられ、必要なものを自力で作れるという自信が身についてきたからだと思います。どんなことでも「失敗してもいいやん。自分の力でやってやろう!」という気持ちが強くなりました。自分でもこんなに田舎暮らしに適応できるとは思っていませんでした。
それから、やりたいことがいくらでも出てくるので年を取ることが怖くなくなりました。効率とかノルマといった考え方から解放されましたし、ものの見方も変わり、ありがたいと思う気持ちが以前よりずっと強くなったように思います。雨にも感謝するし、廃材だって以前はただのゴミだと思っていましたが、今では使える物資だと思うようになりました。
ここでの暮らしは「想像以上」です。周囲の人たちはほど良い距離感で温かく迎え入れてくれ、綾部市の受け入れ態勢や補助金もしっかりしていて、綾部は移住しやすい土地だと思います。以前とは比べ物にならないほど幸福度が上がり、不満や不安がどんどん消えていきます。
インタビューを終えて、綾部に移住したことを心から喜び、充実した日々を送っている中井さんの姿が印象に残りました。