【口上林に移住した経緯】駒井靖さん、美穂さん
以前住んでいた場所:京都市
現在の住所:綾部市十倉中町
移住の時期:2023年3月
家族構成:夫婦
コロナ禍が人生の転機に
移住する前は、祗園に近い京都市東山区の花街・宮川町で京料理の専門店「喜久屋」を経営していた駒井さん夫妻。雄大な里山を見下ろす眺望が最高に気に入ったという口上林地区の古民家を購入し、綾部に移住しました。
靖さんは祖父の代に創業した「宮川町 喜久屋 駒井」の3代目。60席ある店の経営は順調でした。ところが突然コロナ禍によって窮地に陥ったのです。
緊急事態宣言によって、たくさんの従業員を抱えたまま何もできなくなってしまって途方に暮れました。そこで「やることがないなら弁当を作ろう!」と決めて、それからは作った弁当を子育て中の家庭に持ち帰ってもらうようにしました。それが新聞に取り上げられ、あちこちから善意でたくさんの食材が届くようになったのです。母校の中高のOBらからもどんどん協力の申し出があって、結局ものすごい数の弁当を作りました。
移住を決めたのはなぜですか?
弁当は作っていましたが事態は悪くなる一方で、従業員もほとんど辞めてしまいました。好きな料理の腕を存分に振るうことができず、死にたいと思うほど悩んでいたある日、妻に「田舎でも見に行くか」と誘ってみたのです。田舎暮らしは将来の夢でした。古民家巡りをしながら、綾部で知り合った人たちとのご縁でどんどん綾部に引かれるようになりました。そしていくつも見せていただいた家の中で、今の家に惚れ込んだのです。
家が見つかったことで移住を決心したということですね。
はい。この家は高台にあるので雄大な田園風景の素晴らしい眺めが魅力です。雲海も見えるんですよ。「この家で料理屋をやってみてもいいか」とか「終の棲家にして宿泊施設も始めてはどうか」といった考えが浮かんで、移住を決めました。
綾部のどこが気に入ったのでしょうか。
美味しくて新鮮な食材が驚くほど安く手に入るのです。都会にいたら知ることができなかったことばかりですよ。今では都会に出ても居心地が悪くてすぐに綾部にとんぼ返りしたくなります。近くには移住者仲間も多く、上林を選んで良かったと思います。田舎ではこんな素晴らしい暮らしができるのだということをどんどん発信したいと思っています。
ご近所さんがお米を分けてくれるので、綾部に来てからはお米を買ったことがありません。それを栗ごはんや松茸ごはんにしてお返しすると、また何か差し入れてくれて(笑)。田舎は素晴らしいですね。
駒井さんはここをオーベルジュとして使うために、檜と石でできた豪華な風呂やサウナ、そして地元の食材をふんだんに使った料理を楽しんでもらうためのカウンターを作り、火の暖かさを楽しんでもらうために薪ストーブを入れました。また、荒れていた庭も立派な日本庭園に再生して、窓からの素晴らしい眺望が復活。緑の田園と上林川の清流をはるかに望む菜園は広々としたドッグランに改装し、レンガを並べてバーベキューコーナーも作りました。駒井さん自身もリフォームに汗を流し、あとはお客さんを迎えるだけです。
2023年7月には予約制の飲食店としてスタートしましたが、2023年中には宿泊もできる「オーベルジュ喜久屋」として正式にオープンする見込みです。うちには犬の「ルーク」がいるので「どうせならペットと一緒に泊まれる宿にしよう」と考えました。ここにしかないものを提供したいと思っています。
京都の喜久屋は今年2月に閉店しましたが、和風カレーパン専門店「カレーパン工房エシカル」を昨年11月から美穂さんが中心となって宮川町で運営しています。家の近くにある心理療育施設「るんびに学園」の子どもたちにもカレーパンを無償提供するなど、駒井さん夫妻は地域への貢献も使命だと考えています。
今後は子どもたちのための料理教室をやってみるなど、いろいろ考えたいですね。「地域があってこそ自分たちがある」と思っています。綾部の人にも食事を堪能してほしいので、宿泊利用のない日には手打ちそば御膳(予約制)を提供します。また毎月第3日曜には「ツキイチ企画」として、本業の傍ら研究を重ねてきたカレーのセットも予約で提供しています。
駒井さん夫妻のアイデアとエネルギーは綾部の地でますます勢いを増したように感じさせてくれました。