ゆう月(料亭)
茅葺きの古刹・岩王寺へと向かう七百石町の里山風景の中に店を構える料亭「ゆう月」。2005(平成13)年のオープン以来、四季の彩り豊かな庭園と日本料理の伝統を重んじた本格的な会席料理で、常連客の心を掴んできた隠れ家的な名店だ。
本館は静かな環境を生かした完全個室で昼夜3組ずつの予約制とする一方、別館は全50席のガーデンテラスで、団体客向けにバーベキューや鍋料理を提供。
コロナ禍においては、ほかの予約客との接触機会がない完全個室の安全性を強調する一方、テイクアウトの拡充にも即座に対応。仕事を休めない両親のために臨時休校中の子どもらを預かるボランティアも共感を集めた。
不便な立地でもまた来たくなる独自の価値を提供し続ける同店で、創業から料理長を務めてきた通山直人さん(41)に同店の魅力を尋ねた。
四季彩る会席料理と庭園
創業の経緯を教えてください。
この建物は元々、自然を生かした別荘としてオーナーが建てられたと聞いています。その後、喫茶店を経て料亭に改装することになり、料理長として声を掛けて頂いたのが私でした。
その当時、まだ26歳だったそうですね。
その通りです。私は大学卒業後、23歳で料理人を志し、当時、再開業した「ホテル綾部」(味方町)のオープニングスタッフとして調理部門に入りました。そこで日本料理の魅力に目覚め、業務に加えて独自の勉強を重ねました。26歳でホテルを退職し、今後の自身の料理の道について考えていた時、ホテルのお客様だったオーナーからお誘いを頂きました。
不安はありませんでしたか。
当然不安でしたが、オーナーに呼ばれて初めてこの店を訪れたのはちょうど初夏。庭に視線をやると、池に睡蓮が咲き誇り、錦鯉が優雅に泳ぐ風景が目に入り「この先、こんなチャンスはない」と決意を固めました。
料理長としての苦労はありましたか。
最初は献立を組むことも表現力も、そもそもレパートリーも足りていなかったので、とにかく研究のためにいろんな料理店に食べに行き、調理場の見えるカウンター席を選んでは所作や包丁さばき、盛り付けなどを盗みました。また、師匠からは「高い専門書を何冊も買うより料理写真の多く載っている雑誌をたくさん見ろ」と教わっていたので、ホテル時代から給料のうち毎月1万円を食事代や本の購入に充て、それは「ゆう月」創業後も続けていました。
料理長が生け花、動画撮影も
ほかに負けない店の魅力は何ですか。
まずは地元の食材の持ち味を生かした季節ごとの会席料理です。常に新しい要素を取り入れつつも、日本料理の基本を大切にしています。また初夏には天然のホタルも舞う自然豊かな庭園を眺めながら、ご家族でゆったり過ごして頂けるのが、ゆう月ならではの魅力だと考えています。
ご自身で花も生けられるそうですね。
生け花を任せていたスタッフが辞めたのを機に始めました。我流ですが、様々な流派の先生方のインスタグラムをお手本に日々研究しています。料理人自らが部屋のお花までトータルでおもてなしすることも重要だと思っています。
新型コロナの影響は。
来店客が減ったのは本当に厳しいですが、時間に余裕ができたことで、いろんな挑戦が出来ました。テイクアウトでは記念日プランやバーベキュー、鍋料理などに挑戦して好評を頂きました。また来店頂けない分、四季折々の庭園風景や料理を自分で動画撮影してインターネットで発信することにも力を入れています。
将来のビジョンを教えてください。
お客様にお値段以上の価値を提供して喜んで頂き、特別な時に使って頂ける店になれるよう、自分の手の届く範囲を大切にしていきたいと考えています。
ゆう月
綾部市七百石町由里16―1
電話 0773-44-0818
ゆう月HP